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肯定できない日本のIT業界の状況

 

このコラムでは、ITストラテジストである筆者・田部良文がIT業界の課題と展望について書いております。前回のコラムでは、世界の中で日本の企業が時価総額の点で圧倒的に弱いこと、その一因が適切な投資がなされていないためであることを指摘しました。

 

このコラムは4回の構成で、以下のテーマで執筆していく予定です。

 

1.肯定できない日本の現状

2.肯定できない日本のIT業界の状況

3.IT人材のSWOT分析

4.展望:活躍できる未来をデザインする

 

前半は課題を共有するフェーズとなっており、解決策は後半で取り上げさせていただきます。この機会に私の個人ブログ(※1)も立ち上げて、補足となる話題を取り上げていきますので、ぜひご参照ください。

さて、第2回は「肯定できない日本のIT業界の状況」についてフォーカスを当てます。IT業界の課題を見ていきましょう。

 

 

 

まず、IT投資の現状を見てみましょう(※2)。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査」によると、基幹システムのライフサイクルは2012年の調査では平均14.6年でした。改修を加えながらだとしても、基幹システムを一旦構築したら14年以上使い続けることが一般的だということになります。

 

情報技術はこの14年間で大きく進歩しましたが、事業活動の基幹となるシステムはほとんど変わっていないというのが実情なのです。IT業界にいる私の実感としても同様で、基幹システムの刷新を行う企業は非常に少なく、大手IT企業であっても、自社のシステムは十数年同じままという企業がたくさんあります。

 

さすがにこんな無理は続かないだろうと筆者は思っていたので、数年内にシステムの刷新プロジェクトがたくさん立ち上がると期待しておりましたが、数年を経ても、そんなことは兆候すらありませんでした。2016年の同調査を目にして驚きました。21年以上前に構築したものが20.4%、10年〜20年以上前に構築したものが39.1%と、4年前の調査から変わっていないどころか先延ばしして状況が悪くなっていたのです。

 

さらに驚いたのは、21年以上前に構築したシステムを使っている企業の中で、アンケートで今後の利用期間について「5年以内」と回答したのは17%しかありませんでした。調査は長期に渡って行われているので、経営者も変わっていることが多いはずですが、更新すらせず、できるだけ先延ばしにするという判断が続いているのです。

 

導入当時の担当者はユーザー側にもベンダー側にも残っておらず、システムはブラックボックス化してしまっており単純更新にも支障が出てきてしまう深刻な状況です。この状況を見ると、前回のコラム同様、私は経営者に批判的にならざるを得ません。経営者がたとえ黒字だと言ったとしても、実際には適切な投資がなされた上での結果ではなく、意思決定すべきことをせずに先延ばしにして、場当たり的に経営してきたと言えます。IT以外の面でも同様の傾向があれば、その経営成績については疑問を呈さざるを得ません。

 

身近な例でご理解いただくために、読者の皆さんはオフィスを見回してみてください(※3)。そこにはパソコンが何台ありますか?パソコンは法定償却期間が4年です。故障時のパーツ入手の可否や陳腐化を考えて5年利用するとしましょう。毎年5分の1が刷新されていますか?もしくは、5年に一度全台が刷新されていますか?私の知っている企業では、3年で随時入れ替えるところもあれば、10年経っても故障しない限り使い続けさせられる企業もあります。

 

例えば、200台のパソコンが稼働する企業で、ハードウェア更新を1年間分控えたら、400万円前後の経費が浮きます。「失われた20年」と表現されるように、20年程度人件費を低く抑え、かなり優秀で真面目な国民性である日本の一人当たりGDPの世界ランキングも落ち続けている状況の中では、経営者が黒字だと言ったとしても、それは適切な事業運営によるものではなく、単に問題を先延ばしにして、企業価値や一人当たり生産性を下げた結果の経営成績なのかもしれません。一体、誰のための経営成績なのでしょうか?

 

 

 

外部環境として適切な投資がなされない文化となっている日本で、IT業界としてはどういうビジネスモデルで臨んでいるかを見てみましょう。「IT業界」と言っても範囲が広いので、筆者が代表性があると考えるシステムインテグレーター(以下SIer)業界について取り上げます(※4)。

 

システムインテグレーターとは、ユーザーに代わって、情報システムの企画から構築、運用までに必要なサービスを一括して提供する企業を指します(※5)。近年このビジネスモデルが崩壊してしまいました。システムインテグレーションビジネス草創期は、構築するシステムについて、OSや機器が各社オリジナルの割合が高かったため、値決めにおいて、企画、構築、運用のどのフェーズでも自由に設定できました。

 

企画立案、構築、運用のどのフェーズでもサービスを無償もしくは低減すると謳って、「このオフィスコンピューター(オフコン)を買ってくれれば、タダでエンジニアもついてきます。」というお得感を前面に出したビジネスが成立していたのです。目に見える機器の値段で利幅をとり、他の項目をサービスに見せる価格構造にするのが一般的でした。

 

しかし、そこにオープン化の波がやってきます。標準的なOSが登場し、そのOSを搭載する機器や、そのOS上で動くソフトがどこでも調達可能になり(※6)、SIerは差別化のポイントを失い価格競争に晒されるようになりました。この時、システムインテグレーターはサービスを有償化するビジネスに方向転換を図る必要がありましたが、現在においてもできておりません。たとえできたとしても、高度専門的技術の提供が、誰でもできる業務の人工費のような扱いです。最もコストがかかり、他社との差別化のポイントである企画立案サービスを営業フェーズであるとして有償化できていないので、差別化できない製品販売(顧客側からすると導入調達)フェーズで稼げる小さな利幅で、勝負するしかない状況になっております。

 

企画立案フェーズで有償化できている米国と比較すると、営業利益率は米国14%に対して日本は6.7%となっております。しかも、クラウド化が進むことによって、導入調達フェーズの差別化はほとんどできず、SIerを介す必要性も低くなり取扱量も激減することが予想され、ますますこの傾向に拍車がかかります。単純化すると次のような表となります。

 

 

さすがに、このビジネスモデルでは、日本経済全体に悪影響が出ます。まず、企画立案フェーズに対して、無償でそれなりの提案が得られるので、顧客側は真剣にコストをかけて企画立案フェーズを内製化しようというインセンティブが得られません。当事者意識が醸成されないのです。一方、SIer側は利益の得られる範囲でソリューションを検討するので、顧客にとって最適なものが提案されるとは限りません。

 

また、責任範囲も曖昧になります。企画立案フェーズは様々なリスクを抱えますが、顧客側は「よくわからない」ことを理由に、そのリスクを保有することを拒否し、SIer側の責任にしてしまうのです(※7)。

 

特に日本では、サービス部分を無償化して顧客の意向をできるだけ叶え、契約で合意したはずのゴールを動かすような無理をきいて、モンスタークライアントに育てあげ、ライバル企業が参入する気を起こさせないようにして付き合いを続ける営業スタイルが横行しているので、その傾向は顕著です。いくらITのプロであっても、オープン化の時代には他社が提供する機器やサービスなどの、「未知のもの」や「制御不能のもの(指揮命令権がないもの)」に関しても多く関わらなければいけないので、リスクを抱えざるを得ません。無償で提供する企画立案フェーズでモンスター相手にリスクを抱えざるを得ないSIer側は、できるだけ無難なソリューションを企画していくことになります(※8)。

 

 

 

企画立案フェーズの有償化が困難であることは、他のデータからも明らかです。コンサル市場はGDP比で米独が0.7%であるのに対し、日本は0.06%と1/10程度です(※9)。ITエンジニアのユーザー企業所属の割合が米国65.4%に対して日本は28%(※10)と、米国と正反対でユーザー企業側にはほとんどITエンジニアはおりません(※11)。にもかかわらず、需要のありそうなコンサルの利用が、なぜか1/10程度なのです。おそらく、SIerなどが無償で提供してしまっているのだと思います。

 

そして日本のコンサル会社では、売上の大部分をコンサル部門ではなくSI部門が稼いでいる現状があります。例えばコンサルや超上流フェーズのイメージでブランド化している野村総合研究所の2017年3月期決算においてサービス別連結売上高では、コンサル12.3%、開発製品販売33.1%、運用サービス52.2%、商品販売 2.4%となっております(※12)。

 

確かに高品質のサービスがタダという商習慣は日本の特徴であり、そのメリットもたくさんあると思います。しかし、現状は企画立案フェーズで適切なマネタイズができていないため、アンバランスなものになり、事業計画を牽引するテクノロジードリブンな企画立案・助言が得にくくなってしまっております。

 

ここで筆者が思い出すのは、経済学の情報の非対称性の議論です。これは、売買される財・サービスの品質について、需要者と供給者が異なる情報を持っているような市場では、低価格で品質の悪いサービスばかりが出回る、「市場の失敗」が起こるというものです。安ければいいというものでもないのです。

 

 

 

IT業界の肯定できない状況を取り上げてまいりました。他にも多重下請け構造という非常に重要なトピックもありますが、紙面の都合で割愛いたしました。このテーマについてはネット上でも見つけやすいので、ぜひご自身で調べてみてください。 今回は「肯定できないIT業界の状況」と言うテーマで、IT業界の課題について取り上げました。一個人や一企業では、なかなか改善できない課題でした。しかし、他方でIT業界には大きな可能性もあります。次回以降は、IT人材の強みや弱みを分析して、どのような特徴があるのかについて、お届けしたいと思います。

(※1)筆者個人ブログ URL: https://curiositydrivenbyitst.blogspot.jp/

 

(※2)出典 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2012(11年度調査)」「企業IT動向調査2016(15年度調査)」「企業IT動向調査2017(16年度調査)」

 

(※3)ソフトウェアの文脈で記述してきましたが、わかりやすくするためハードウェアでの記述に切り替えております。

 

(※4)参考文献 斎藤昌義著『システムインテグレーション崩壊』技術評論社

 

(※5)詳細は、経済産業省「システムインテグレーション登録制度の概要」平成21年9月を参照してください。但し、登録制度自体は廃止となりました。

 

(※6)出典:日経コンピュータ 2014年2月6日号pp.30-32の転載記事から引用

 

(※7)金融業界など、監督官庁からの指導が厳しい業界は除く。前述のJUASの調査によれば、金融業界は売上高比で6.73%(トリム平均)の投資がされているのに対して、全産業平均は1.08%となっている。

 

(※8)企画立案のできる高度な人材を育ててもリターンが得られないSIer側は、ITストラテジス ト人材を育てることにインセンティブが得られず、教育は近視眼的なものばかりとなってしまう傾向があります。また、企画フェーズには先進的な技術の調査や検証も必要ですが、無償では十分に取り組むことはできません。

 

(※9)IDC japanのデータ。IT業界だけのデータではありません。

 

(※10)経済産業省『IT人材白書2017』

 

(※11)しかも、多くのユーザー企業ではIT投資の必要性に気づいておらず、専門の担当者の不在や、兼務職で工数不足、スキル不足であることがよくあります。元SEだったと言って専門的知識を有することを主張する担当者が、妥当性や相場感に合わない、頓珍漢な要求をしてくるケースはよく見られる光景です。

 

(※12) https://www.nri.com/jp/ir/individual/highlight/segments.html

 

 

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